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インタビュー 倉庫の教科書「リーン・ウエアハウジング」 川崎陸送 樋口恵一社長

2013年6月24日(月)

 川崎陸送(本社・東京都港区)の樋口恵一社長は、「リーン・ウエアハウジング〜ムダのない倉庫・配送センターをめざして」(ケン・アッカーマン著)を翻訳し、5月29日にグループのエル・スリー・ソリューションから出版した。2011年の東日本大震災直後、企業の事業継続計画(BCP)対策の手順書として「『事業継続』のためのサプライチェーン・マネジメント実践マニュアル」(ベティーA.キルドウ著、プレジデント社)を「緊急翻訳」したのに続く第2弾。今回は、米国で倉庫、配送センターのマネージャーからカリスマエキスパートと支持されているアッカーマン氏の著書を、倉庫、配送センター管理の実践的教科書として日本市場に供給する。ネット通販に代表される、「即日配送」「配送料無料」などロジスティクスを前面に出したビジネスモデルが激しいシェア争いを繰り広げる中、その一角を担う倉庫、配送センターの役割はますます重要になってくる。倉庫、配送センターの業務と管理方法を「リーンになること=時間とスペースの活用」という一貫した視点で解説する同著書について、翻訳の狙いも含めて樋口氏にうかがった。(聞き手・カーゴニュース石井麻里)

 ――翻訳・出版にいたった経緯をお聞かせください。
樋口 これまで物流について書かれた本はマネジメントに焦点を当てたものがほとんどで、「トラックオペレーション入門」、「倉庫オペレーション入門」など業務の実態に合わせたベーシックなものはありませんでした。物流会社の新入社員は、物流に関する本で学ぼうとすると、「ロジスティクス」、「サプライチェーン」等のカタカナ語を多用した?応用編″から入らなくてはならなかったのです。オペレーションの入門書、すなわち、実際の物流現場で役に立つ教科書的な本は日本にはないけれども、米国にはたくさんあります。そこで、アッカーマン氏の著書を翻訳しよう、と。ただ、物流のオペレーションに焦点を当てた本が日本にほとんどなかったのは、読者があまりに狭い範囲に限られ、書き手や出版社の強い関心を引かなかったからでしょう。このため、翻訳はもちろん、著者との翻訳権の交渉や本のデザイン等出版に絡むほとんどを内製化し、グループのエル・スリー・ソリューションから出版することにしたのです。

 ――単なる物流のハウツー本と違い、「哲学」がありますね。
樋口 「リーン・ウエアハウジング」では、トヨタ生産方式を倉庫管理に応用し、倉庫管理の手法を具体的な事例とともに解説しています。解説書ではあるけれど、「リーン」というバックボーンになる考え方があり、それに沿った章立てとなっています。最終的に、「倉庫、配送センターの業務とは時間とスペースを効率的に活用することだ」というキラーフレーズに行き着くわけですが、これは「倉庫とは何か」という問いに対する答えではないでしょうか。本の内容は決して難しいものではありません。現在倉庫を管理している人またはこれから管理する人が参考にできるひと通りの管理手法、リーダーシップのあり方が書かれています。倉庫に関する不変の原理原則が書かれているので、倉庫のオペレーションを行っている会社だけでなく、倉庫の建設や賃貸を行う会社にも長期的な倉庫の管理の仕方は参考になると思います。

 ――著書を日本の市場に出したいという動機はどこから来ていますか。
樋口 倉庫の経営者や業界大手の一部の会社の管財部等には、おそらく倉庫管理に関する知識が蓄積されていると思うのですが、個人、社内の1部門の知識にとどまり、組織や業界としての知識になっていません。私自身、現在は卒業していますが、倉庫業青年経営者協議会(倉青協)の活動を通じて同業他社のたくさんの倉庫を見学し、知識を吸収してきましたが、その都度確認に使える教科書があればいいと思っていました。書かれている内容は倉庫会社のベテラン社員の“暗黙知”に通じるところがあります。“暗黙知”を「リーン」という考え方に基づき体系立てて整理しているのが、この本です。倉庫や配送センターを運営する会社が新入社員等の研修にこの本を活用する際には、リアリティを持たせるため、自分たちの倉庫を例に挙げて説明してほしいと思います。入社1、2年目の社員が上司や会社の考え方を理解できるようになります。

 ――実際に川崎陸送でも著書を実践に使っているとか。
樋口 当社では来年末をメドに埼玉県坂戸市で倉庫の増設を計画しています。このプロジェクトに携わっている社員には翻訳のゲラの段階で著書を読ませていました。「5年先の物流・仕事を考えて行動する」が当社の今期(76期)の経営方針ですが、倉庫は一度建てると5年どころか30年後も使用します。著書にある「倉庫、配送センターの業務とは時間とスペースを効率的に活用することだ」という発想をベースに、それに少子高齢化社会の到来といった外部条件を加味しながら、倉庫を設計してほしいと指示しています。つまり、少子高齢化の条件下で、時間と空間を効率よく活用するという発想で倉庫を設計してほしい、と。経営の視点で、私はトラック運送部門には「稼働率を上げること」、倉庫には「時間と空間の効率的活用」をそれぞれ期待目標として示していますが、時間と空間という言葉を使って説明することによって、管理のベースとなる考え方が社員に浸透していくと思います。

 ――日本の物流にはリーンの逆を行くムダが多いですね。
樋口 物流業界でリーンという言葉はそれほど普及していませんが、製造業でリーンは当たり前です。生産管理におけるリーンの考え方が物流管理にも適用され、共通の土台となる哲学になればいい、と。「ジャスト・イン・タイム」は、それによって工場はリーンになっても、トラックからみると待機時間が発生するなど必ずしもリーンではありません。著書では倉庫管理の重要な指標として「協力業者、特にトラック運送事業者に、自分たちの倉庫業務はどう思われているか?」を挙げています。今の日本には倉庫やコンテナヤードで「トラックを待たせてもかまわない」という風潮がありますが、リーンの考え方が物流に持ち込まれ、「時間と空間の効率的活用」が物流現場の?憲法″になれば、トラックの待機もなくなり、倉庫やコンテナヤードも残業や余剰な人員配置が解消されるなどお互いにメリットを享受できるはずです。リーンではない現象の裏には「宝の山」が隠れています。(カーゴニュース)

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