運送事業者レポート

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第32回】 キャリーシステム株式会社(茨城県坂東市)

農業サポート会社を設立し荷物の拡大を図る

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自社で運ぶ荷物を自ら創りだすために新会社を設立したのがキャリーシステム(本社・茨城県坂東市、武田洋明社長)だ。同社は1993年11月の設立で、主たる取引先はハム・ソーセージや冷凍食品のメーカー2社、総合食品卸売会社、全農の農産物などで、売上の約90%を占める。

現在の売上高は38億強(2013年3月期)で、従業員数は280名(パートを含む)。保有車両数は50台で、内訳はトレーラのヘッドが2台、シャーシが18台(冷凍車)、他の30台はほとんどが4t車(80%が冷凍車、20%がウィング車)である。トレーラのシャーシが18台でヘッドが2台だけなのは、シャーシは自社で保有し、ヘッドは傭車という形を採っているからである。

事業部門別の収入内訳では運送収入が60%、作業収入が40%の割合で、同社では将来は5:5にしたいとしている。なお、運送部門では自車両が30%、協力会社への委託が70%の割合になっている。

同社は東京営業部、北海道営業所、八千代VFステーション、常総営業所、千葉営業所、長野営業所、長野物流センター、松本営業所、姫路営業所、小野営業所があるが、今年4月1日に新たに設立したのがNCSアグリサポート(株)である。新会社は農作業の受託や農産物の生産・加工および販売、農業資材の貯蔵・運搬・販売、農業機材の賃貸借、貨物運送取扱などの事業を行う。

農家では農業従事者の高齢化などの問題を抱えている。そこで農家を様ざまな面からサポートし、生産物の輸送拡大につなげるのが新会社設立の目的である。つまり、今後の社会、経済の変化に対応し、自社で運ぶ荷物を自ら創造しようという試みといえる。全農茨城には県内に3カ所のVFS(ベジタブル・フルーツ・ステーション)がある。中央、県西、県南の3つのVFSで、このうち同社では県西VFSの業務を受託し、また中央、県南のVFSでは、同社の社員が出向して販売などにも携わっている。

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VFSはJA茨城が販売していない加工会社などを対象に全農茨城が農産物を販売しているもので、JA茨城とバッティングしない販路への流通を担ういわば直販センターである。販売先の加工会社は全国にわたり、キャリーシステムは県西VFSの作業と輸送を受託しており(中央と県南は作業だけ)、県西VFSの荷物だけでも、大型車を毎日14、15台運行している。そこで同社は、昨年5月に野菜集荷場を八千代町にオープンした。この集荷場は全農茨城の県西VFSが併設されていて、同社がVFSの作業関係と運送を請け負っている。

キャリーシステムは、これまで荷主の工場や物流拠点内に営業所などを配置してきたが、初めての自社施設である。またこの施設には、やはり同社では初めてとなるソーラ発電装置を屋根に設置し、今年3月18日から売電を開始した。ソーラパネルで発電した電気は100%売電しているが、当初の予定よりも順調に売上が推移しているという。

この全農茨城のVFSでは地元の農家から生産物を仕入れて加工会社などに販売しているが、加工会社の場合には需要がコンスタントにある。つまり安定的な供給ができなければならない。それには農家からの安定的な仕入れが前提となる。だが、農業従事者は高齢化が進んでいるため、農作業などが大変になり、安定的な生産にも支障がでる可能性がある。

このような背景もあって、武田社長は「5年ぐらい前から農業をやりたいと考え、全農茨城に相談していた」という。改正農地法の施行が2009年12月15日なので、それよりも少し前のことである。その後、農地法など法令の研究も含めて全農茨城と話し合いを進め、2012年春には新会社の大まかな構想ができた。そして昨年8月から全農茨城の関係部署(園芸部、農業機械課、営農企画課)と同社によるプロジェクトチームを発足。新会社設立に向けて、農作業の受託、農業経営その他について検討してきたのである。

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新会社の事業は全農茨城、JA、新会社の3者共同契約に基づき、当該JAから農家サポートの委託を受けて、新会社が農作業や遊休農地の活用などをサポートするというもの。 具体的には野菜の収穫・調整・荷づくり、野菜の袋詰め、さらに利用されていない農地を活用して野菜などの生産を手伝う、といった事業である。NCSアグリサポートでは、シルバー人材などを活用してこれらの作業を行う。

運送業務では、生産者やJAからVFSへの生産物の引き取り、VFSから全国の販売先への輸送などになる。販売の関係で販売金は全額、全農茨城に入る。NCSアグリサポートには全農から作業受託費や運賃(キャリーシステム)が支払われる。生産物への支払は、全農からJAに支払われ、JAから生産農家に支払われるという形だ。このようにキャリーシステムでは、新会社での農作業のサポートやVFSでの作業収入の増加とともに、本業である運送の荷物の拡大を図っている。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>