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運送事業者レポート

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事

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【第178回】    鈴仙運輸株式会社(東京都品川区)

放送機材輸送の合間は荷台を編集作業ができる事務所に

 トラック運送事業者は様々な物を運んでいる。なかにはマスコミ関係の仕事をしている事業者もいる。鈴仙運輸(東京都品川区、鈴木宏和社長)もそのような事業者の一社だ。同社はNHKなどの放送機材の輸送をメインにし、その他にも精密機器の保管と輸送などをしている事業者である。精密機器関係は別としても、放送機材輸送など一般の運送会社とは少し異なる分野を得意としているのが同社の特徴といえる。その放送機材輸送では、ロケ地に機材を運び、ロケが終わったら機材を引き取る。つまり放送局のスタッフが撮影などをしている間に車両をどのようにするかが重要になる。そこで同社が昨年11月に導入したのが発電機付き(エアコン)トラックである。この車両は、放送機材輸送の合間に番組制作スタッフが庫内を編集作業などの事務所として快適に利用できるようにしたもの。第1号機は4トン仕様トラックで、さらに7月24日には2号機の6トン車が納車になった。

 鈴仙運輸の創業は1927年と社歴が長く、もうすぐ創業100周年を迎える。現社長の祖父の創業者は愛知県の出身で、小学校卒業後に上京し、当時、新橋烏森にあった糸仙回漕店に勤め、大八車で荷物を配達する仕事をしていたという。1927年には27歳で独立し、汐留で個人で仕事を始めたのが創業である。2年後の1929年には糸仙回漕店の「仙」の一字をもらい鈴仙組とした。その後、戦争を経てやがて終戦を迎えた。戦後間もなくは、現在のニュー新橋ビル前の闇市で米やすいとん、タバコなどを売って生活していたというが、1954年には株式会社にしている。そして印刷業の知人から、当時は内幸町の現在のイイノホールの近くにあったNHKを紹介してもらった。NHKの事務用品などを仕分けして梱包し、鉄道貨物で全国の放送局に発送する仕事である。そして1964年には称号を現在の鈴仙運輸株式会社にしている。

 その後、1989年の昭和天皇の崩御に際し、その中継放送に使用する放送機材などの輸送も受託するようになった。鈴仙運輸が輸送を担当している機材はカメラやマイク、ケーブルなどである。音響やテントなどは他の事業者が輸送しており、一口に放送機材といっても、それぞれに輸送を担当している事業者が違うようだ。1997年には会社を品川区に移転して倉庫業にも参入し、HNKの関連資材などを預かるようになった。現在の従業員数は14人で、保有車両数は12台(6トン車2台、4トン車3台、3トン車4台、2トン車2台、バン1台)である。事業内容は一般貨物運送事業の他に倉庫業、産業廃棄物収集運搬業(東京都、千葉・埼玉・神奈川の各県)、特定信書便事業、梱包作業である。取扱荷物はNHK関係がメインで「関連会社なども含めると売上の約70%」(鈴木社長)を占めている。もう一つの事業の柱が精密機器の保管や輸送である。

 同社は特定信書便事業も行っているが、NHKの取引の中には「特定信書便事業許可取得が入札の条件になっている仕事もある」(鈴木社長)からだ。同社が輸送している放送機材はカメラ、マイク、ケーブルなどだが、北海道から沖縄まで全国各地に行く。各地の放送局にも機材はあるが、全国どこでも同一の機材を使用することがあるという。たとえばNHKのど自慢は全国どの会場でも同じ機材を使うようだ。仕事のオーダーは「半年ぐらい前から分かっている場合もあるが、一週間前ということもある」(鈴木社長)。また、早くから仕事が分かっていても輸送距離や輸送条件によって配車の効率化には工夫が必要だ。ドライバーには9時間のインターバルを確保しなければならないので、距離によっては機材を運んでその日に空車で帰ることもあれば、翌日に帰ることもある。地方への輸送では車両は現地に何日間か置いておき、ドライバーだけが帰ってきて別の仕事をしたりする。

 一方、地方ロケをする制作スタッフは、現地で編集作業などをしたり休憩をとったりするスペースが必要で、簡易テントを使ったりしている。だが近年は夏の猛暑がすごい。同社はエアコン付き車両が現在3台あり、現地スタッフが休憩場として使用するような時は「留め置き料として料金を収受している」(高橋健一取締役営業部長)。だが、エアコンを付けただけのトラックでは庫外の熱気や冷気の影響を受けて庫内の温度などを安定的に保つことが難しい。エアコンの設置だけではなく庫内環境をより良くする必要がある。そこで鈴仙運輸では、機材を輸送して荷卸しした後は、事務所や編集作業場として使用でき、休憩所としても快適に活用できるように断熱効果を高めたボディにし、庫内の照明も完備してコンセントなども備えた発電機付きの車両を開発したのである。「車両の開発を先行したが今後は契約が増えてくることが期待できる」(鈴木社長)としている。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>