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運送事業者レポート

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事

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【第175回】    トーエイ物流株式会社(埼玉県久喜市)

時給を指標に賃金を減らさず時短促進、DXで生産性向上

 「2024年問題」の核心は労働時間と賃金水準を全産業並みにすることである。そのためには時給単価を指標にして、賃金総額を下げることなく時短を推進しなければならない。「残業は悪」と考えるように発想を転換し、3年ぐらい前から労働時間短縮など「2024年問題」への対応を進めてきたのはトーエイ物流(本社・埼玉県久喜市、遠藤長俊社長)である。「時給を上げることをメルクマールにして、給料支給額を減らさない」(遠藤社長)という取り組みである。このような基本方針に基づいて、年間最大残業時間960時間以下は法令の施行より1年前倒して2023年4月から実施。また、年間休日は以前から110日だったが、さらに今年4月からは120日に増やした。年間休日を増やせば、1人が年間に働く時間が少なくなるので、その分をいかにカバーするかが大きな問題だが、同社では可能な限り人員を増やさず、生産性を向上する取り組みを進めている。

 トーエイ物流は1963年の設立で、事業内容は運送業・倉庫業・梱包事業・流通加工事業・自動車運送取扱業その他である。運送では大阪支店(明石物流センター・堺物流センター・高槻物流センター)、名古屋支店(名古屋営業所)、神奈川支店(富士営業所・小田原物流センター)、埼玉支店(桶川営業所・蓮田物流センター・菖蒲営業所・久喜営業所・小山営業所・本社営業所・配車センター)がある。また、倉庫は一般倉庫グループ(騎西物流センター・羽生物流センター・羽生営業所・羽生ロジスティクスセンター・鴻巣物流センター)と危険物倉庫グループ(白岡物流センター・大利根物流センター・新堀営業所・本庄物流センター)となっている。関連会社としてはトーエイアドバンス、トーエイ・パッケージ、トーエイがある。単体の従業員数は567人でうち380人が正社員、保有車両数は213台で、単体売上は98億9000万円(2024年度)だ。

 同社では時短や賃金アップのための原資を確保するため、2023年から約1年をかけて運賃値上げや待機時間の短縮などについて荷主との交渉を進めてきた。そのような中で2023年4月から年間残業時間を960時間以下にする方針を断行したのである。荷主との交渉では従業員の待遇改善、燃料費の高騰、高速代などを前面に出して粘り強く説明した。その結果、2023年3月までに運賃値上げが実現できた荷主は約90%になった。ただし90%というのは取引先の数で、残り10%は取引金額の大きな荷主である。それでも値上げとともに交渉してきた待機時間の短縮など現場作業条件の改善では前進があり、「待機時間はかなり短縮できた」(遠藤社長)という。運賃・料金面でも値上げ前の運賃と値上げ後の運賃の比較では、「年間1億円ぐらいの収入アップになった。だがこの1年間で軽油価格が上昇し燃料支払い額が年間1億円ぐらい増えている」(遠藤社長)。

 燃料費アップに見合う運賃値上げが実現したのだが、運賃値上げで増えた約1億円は総て従業員のベースアップの原資にし、昨年4月のベースアップは4.6%だった。そして今年4月からは年間休日を10日増やして120日にし、完全週休2日制にした。年間休日を120日にしたのは「大学新卒者が来てくれない」(遠藤社長)からという。同社はかなり以前から大学新卒と高校新卒の定期採用をしてきた。今年4月の新卒入社は大卒2人、高卒2人である。このように同社では新卒者を定期採用しているが、「大学生は年間休日120日や福利厚生面の充実などを重視するようになっている」(同)という。「3、4年前から傾向が違ってきた。最近は企業の社会貢献度などを見るようになってきた」(同)のである。「面接などでもSDGsに対する質問などが増えてきた」(同)という。このような傾向の変化を踏まえて、年間休日120時間などは必然的に求められるようになってきた。

 だが、これまでより年間休日を増やせば1人が働く時間が少なくなる。同社は「これまでは1日の所定労働時間が7時間45分だったが、週休2日制にするに当たっては1日の所定労働時間を8時間にした」(伊藤雅道専務)。その分は相殺されるが1人が年間に働く時間が減ることは事実だ。その分を同社では基本的には生産性の向上でカバーする考えである。「できるだけ人員を増やさずに生産性の向上でやりくりして現場を回すように考えている」(同)という。同社にはDX推進部があるが、労働時間を短縮した分をDXで生産性の向上を図り、人員を増やさずにカバーするというのだ。「DXによって属人化している業務の標準化やハンディ化などでカバーしていく」(遠藤社長)。それぞれの現場ごとに非効率な作業をDXで効率化しようという方針である。請求書の電子化や事務センター化などを推進し、運送部門では配車の集中化を進めて配車効率の向上を図っていく計画である。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>

(写真提供:トーエイ物流)