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運送事業者レポート

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事

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【第109回】  有限会社マルヨシ運輸(沖縄県浦添市)

拘束8時間・労働7時間で固定賃金も全産業並みを実現

 働き方改革が大きな課題になっているが、今年4月から1日の拘束時間を8時間、実労働時間を7時間にした中小事業者がマルヨシ運輸(沖縄県浦添市、吉里国男社長)だ。労働時間が7時間を超えれば、もちろん残業代を支払うが、それでもドライバーの月平均の残業時間は25時間程度。トラック運送業界の一般的な実態からすると、残業時間が減ればそれに伴って収入も減る。だが、この事業者はドライバーの残業代を含まない固定賃金の平均が、同県の全産業平均より高い水準を実現した(単純比較できないので筆者の試算による)。マルヨシ運輸のある沖縄県は、沖縄本島をはじめ多くの島からなっている。県外との貨物輸送は船か航空しかない。また、沖縄本島でも面積は約1208㎢、南北端の直線距離も約107㎞、人口は約145万3750人(9月1日現在)なので、島内だけで事業を行っている多くの中小トラック運送事業者は小さな市場で商売をしていることになる。

 このように沖縄独自の条件下で収益性の高い事業をするには「全ドライバーがどんな仕事もできて、1人のドライバーが多い日には1日3台のトラックを乗り換えて乗務する」(吉里社長)といったことが必要だ。1回の走行距離が短いので労働時間も短く、帰り荷もほとんどないという条件にある。そのような中で原価を上回る売上を確保するために一番必要なのはドライバーのマルチ化であり、生産性を向上する作業の組合せとなる。マルヨシ運輸は吉里社長の父が1人1車で運送業を営んでいた。本土復帰前のアメリカの施政権下では1人1車で営業許可があったからだ。一方、吉里社長は乳業メーカー、同物流子会社の勤務を経て独立した(当時の社長は父親)。このようなことから独立直後の仕事は、沖縄に入ってきた原材料などを乳業メーカーの工場に運ぶ1次配送がほとんどで1次配送用の車両が3台、乳業メーカー以外の荷物を運ぶための冷凍・冷蔵車が3台であった。

 独立後に仕事も増やし吉里国男氏が社長に就任したのは2012年6月からだ。現在の保有台数は3t車4台(冷凍車2台、ウィング車2台)、4t冷凍車5台、5t冷凍車1台、7t車2台(冷凍車1台、ウィング車1台)、8t冷凍車1台、10t車1台、12t車1台の計15台と、その他に軽トラックが3台である。従業員数は22人で、内訳はドライバー19人(役員でドライバー兼任1人を含む)、倉庫作業従事者1人、事務員2人である。業務内容は、一般貨物輸送(冷凍・冷蔵品を含む)、利用運送、産業廃棄物収集運搬、軽トラックによる輸送である。冷凍・冷蔵車は、取引先の物流センターから量販店2社の店舗への配送をしている。1社は14店舗、もう1社は8店舗である。同社が配送を担当しているのは本島全域だが、北部は本部町までである。それ以外にも伊江島や伊是名島、伊平屋島のAコープは、船に渡すと先方が港に引取りに来るようになっているという。

 冷凍商品を店舗配送しているドライバーの7時間労働の実態をみよう。出勤時間が朝3時のドライバーの場合、配送を終えて8時から9時には戻ってくる。すると9時からは冷蔵あるいはドライの商品を問屋から積んで、量販店のセンターに横持ちする。これは近距離なので、基本的には11時には仕事が終わる。このように店舗配送の他に、他の短時間の輸送をしたり作業を手伝ったり、あるいはスポットの輸送依頼の荷物を運んだりしている。また、6時30分出社でパン粉の配送をしているドライバーは9時30分にはパン粉の納品が終わる。9時30分以降は14時30分まで段ボールや空ビンなどの輸送をする。同社ではホテルのケイタリングの仕事も年間1000万円ほどしているが、ケイタリングなどは短時間の仕事なので、スポットなども含めて、配車担当者は労働時間や車両の稼働状況など、全体をみながら仕事の割り振りをして効率的なオペレーションをしている。

 事務の2人の女性は8時出勤で16時の退社だ。「8時出社でも9時出社でも家を出る時間はさほど変わらない」(吉里社長)。逆に16時で退社すると道路渋滞の始まる前に帰れるので、「1日は24時間だが自分で自由に使える時間が1時間以上多くできる」(吉里社長)ことになる。ドライバーの陰で忘れられがちなのが運行管理者などの長時間労働だが、同社では3時出社のドライバーの対面点呼者は3時前に出社するが、配車担当者は基本的には7時30分出社で15時30分までの勤務だ。配車担当者が7時30分に出社してくると、点呼なども配車担当者が行うようになる。休みはシフト制で月8日が基本。有給休暇は法定通りで年5日以上を取得している。肝心なドライバーの賃金では、厚生労働省の資料による沖縄県の全産業の平均賃金と、残業代を含まない同社の平均賃金を比較すると、同社の方が高くなっている(筆者試算)。中小事業者でも働き方改革は可能だ。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>