運送事業者レポート
TOP運送事業者レポートtop>2018年5月

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事

バックナンバー一覧はこちら

【第91回】 トーエイ物流株式会社(埼玉県久喜市)

2014年春から高校新卒定期採用し定着率90%


 労働力の確保は大きな課題である。生産年齢人口の減少が主たる原因だが、トラック運送業の場合にはさらに自動車運転免許制度の問題も、若年ドライバー不足の大きな要因の一つになっている。このような中で、2014年4月から高校新卒者の定期採用に踏み出したのはトーエイ物流(本社・埼玉県久喜市、遠藤俊作社長)である。同社は1963年の設立で、最初は小型貸切運送免許による運送事業だった。現在では本社と本社営業所の他に、埼玉県内に6営業所、6物流センター、栃木県に1営業所、神奈川県に1営業所、静岡県に1営業所、大阪府では大阪支店ならびに2物流センター、兵庫県に1出張所がある。また関連会社としてトーエイ・パッケージ、トーエイアドバンス(裾野市)がある。従業員数はパートを含めて425人、保有車両数は172台で、売上高は2018年3月期に単体で初めて80億円をこえた。グループの売上は120億円弱。

 同社では昔も地元の高校などから不定期で高校新卒者を採用していたが、これは計画的なものではなかった。人事政策に基づく高校新卒者の定期採用を開始したのは2014年4月からである。そのキッカケは、遠藤社長が埼玉県トラック協会のシンクタンク委員会の委員として事業に関わったことである。同委員会では面接のノウハウのDVDを作成したり、リーフレットを作成して高校を数校まわって業界の説明などもした。だが、高校の教諭の業界に対するイメージは悪かったという。「我われの業界が勘違いされている。先生方が業界を知らないことを痛感した」(遠藤社長)。このような経験も踏まえて、「新卒者を採用して育てるということはどういうことなのか。実際に育成してノウハウを蓄積したい。一流のドライバーに育てるのはもちろんだが、人としての教育もしていく」(遠藤社長)。そこで高校新卒者の定期採用に踏み切ったのである。


 新卒採用に当たっては専任の指導グループも設置した。営業所の所長経験者を嘱託で採用し、安全品質推進室の中に安全運転指導グループを設けたのである。現在の専任者は2人である。だが、最初は高校に何のつながりもなかった。そこで地元紙である「埼玉新聞」主催の合同企業説明会にでたり、高校を周ったりした。だが、高校を訪ねてもイメージが悪かったという。このような中でも、2014年4月には2人入社、15年1人、16年3人、17年2人、18年2人と5年間で10人の新卒採用をしている。全員が男性である。このうち入社後に退職したのは最初の年に入社した1人だけ。入社後に個人的な特殊な事情があって1年目で退職した。だが、それ以外は全員が勤務している。もっとも今年4月入社の2人はまだわずかな期間だが定着率は90%である。新卒で入社するのは、やはり両親や親せきの人など何らかの形で運送業に関わりのある生徒が比較的多いようだ。

 代表的なのは、「母親が当社の物流センターでパートとして働いていて、息子は小さな時から母親が働いているトーエイ物流のトラックに乗りたいといっていた」(遠藤社長)ケース。また、今年4月入社の1人は、「小学校の時からトラックのドライバーになりたかったので、高校で普通免許の他に準中型やフォークの免許も自分で取ってしまった」(同)。さらに、就職祝いに「親からキャンター(1.5t)を買ってもらって、キャンターで通勤している」(同)という。同社は新卒採用者の教育に時間をかけている。最初の1週間は本社で入社時社員研修を行い、その後、1カ月は物流センターで研修。この間にフォークの免許も取得する。その後、ドライバーの教育課程にはいり、2人の専任担当者がマンツーマン教育を行う。運転技術や社会人としてのマナー、そして2t車デビューは入社して約半年後になるがベテラン社員がフォローし、入社1年後に支店などへの配属となる。


 キャリアプランとしては準中型免許を高校在学中に取得させ、入社後にフォークリフトの免許を取らせる。入社2年後には中型免許、さらに大型免許という順になる。同社のこのような取り組みが2017年10月31日放送の「ガイアの夜明け」で紹介され、「中途採用の募集でも若い未経験者の応募が増えてきた」(遠藤社長)という。さらに「指導グループの体制を整えたことにより未経験者を育成する器もできたので、年ねん高齢化していた傾向にストップがかかり、この1、2年で平均年齢が2、3歳若返った」(同)。このような平均年齢の低下傾向を踏まえて、「今後2年間ぐらいで保有車両数を200台にしたい」(同)と考えている。「増車しながらドライバーの平均年齢を下げていく」(同)、という考え方である。「ドライバーを増やして増車し、労働時間も短縮していきたい」(同)。高校新卒の定期採用と社内の育成体制の整備は、このような企業方針に基づいている。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>
(写真の一部はトーエイ物流提供)