運送事業者レポート
TOP運送事業者レポートtop>2015年11月

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第61回】 八武崎運送株式会社(東京都江戸川区)

軽トラックで個人宅配市場への参入を計画



 最近はネット通販の伸長が著しい。経済産業省によれば昨年は12兆7970億円で、前年比14.6%の伸びだった。また、小売市場におけるネット通販のシェアを示すEC化率は、4.37%と初めて4%を超えた。このうち物流(宅配など)が伴う「物販系分野」は6兆8042億円(前年比13.5%増)である。ネット通販が今後も伸びていくことは確実である。さらに有店舗小売業(リアル小売)はブリック&モルタルからクリック&モルタル(店舗とネット販売を融合した業態)への転換を図っている。それにともなって個人宅への宅配やピックアップ・ポイント(指定商品受取所)までの配送などが増加してくる。宅配車両の小型化も進行しつつある。

 このような背景の中で、八武崎運送(本社・東京都江戸川区、八武ア秀紀社長)では「軽トラックによる宅配事業を、できれば来年4月から始めたい」という計画で、現在、準備を進めている。

 同社の社歴は古く、会社設立は1951年である。八武ア社長によると、それ以前には八武ア組として土木工事などを行っていたという。また、平井(江戸川区)から荒川を渡って、馬車で米などの生活物資を地元に運んだりしていたようだ。現在の事業内容は、一般貨物自動車運送、貨物運送取扱、倉庫業などで、従業員数は約130人(パート、アルバイト含む)。保有車両数は49台で、車両の内訳は大型車(13t車)4台、中型車(3t車、4t車)30台、小型車(2t車)15台である。本社の他に東京センター(埼玉県八潮市)があり、所属車両はほぼ半々ぐらいとなっている。運送部門とセンター部門(自車両や傭車による配送の売上も含む)の売上比率は、運送40%、センター60%となっている。しかし、センターからの店舗配送などを運送部門として集計すると傭車を含む運送売り上げが60%、センター作業などが40%という売上比率になる。


 取扱品目別(取引先別)の売上比率をみると、ドラッグストアー関係が50%を占め、残りの50%は、塗料メーカー、塗料等販売会社、飲料会社、大手宅配便会社の幹線輸送となっている。以前は、ドラッグストアー、塗料メーカー、塗料等販売会社、飲料会社、宅配便会社の5社でそれぞれ20%ずつの売上比率だった。

 昔は中堅ドラッグストアーとの直接取引だったが、荷主がM&Aで大手ドラッグストアーの傘下に入ったために、現在は大手物流会社経由になったが、センター内の作業全般と店舗配送を受託している。この荷主の業績が伸びているために、現在ではドラッグストアー関連が売り上げの50%を占めるまでになってきた。塗料メーカーは地元にある東京工場の運送部門の仕事をしている。また、塗料等販売会社は幕張にある千葉営業所の庫内作業から輸送まで物流全般を受託している。宅配便会社の仕事は、ベースと各サテライト間の横持ち輸送である。



 このような中で「eコマースは今後ますます伸びてくる。また、有店舗小売店でも1年ぐらい前からオムニチャネルへの転換といった話を聞くようになった。そのような変化に関わらないと、遅れてしまうかもしれない」(八武ア社長)と考えるようになった。また、現在行っているドラッグストアーの店舗配送の経験を通しても、これからはeコマースの配送が増えてくるだろうと感じたのである。そこで軽トラックによる宅配事業への参入を計画した。ドラッグストアーの元請グループには軽トラックでネットスーパーなどの宅配をしている会社もある。その軽トラック運送会社で研修を受け入れるなど、軽トラックによる宅配市場への参入をバックアップするということになった。八武崎運送ではこれまで個人宅配は経験がない。「個人宅配ではスキルの高いドライバーが求められる」(八武ア社長)。そこで今月からまず管理者が研修に行き、軽トラックでの個人宅配のノウハウを学ぶ。


 八武崎運送では来年4月から軽トラックによる宅配事業を開始する計画だ。最初は軽トラック3台、ドライバー5人によるチーム編成を予定している。葛西や亀有などにあるスーパー店舗のネットスーパーの宅配から入れれば良いと考えている。地元なら地理や様ざまな地域特性なども分かりやすい。スタート時の仕事以外にも、地元固有のニーズを把握して仕事の開拓がしやすいからである。

 東京でも下町の商店街にはまだ昭和の雰囲気が残っているが、それらの商店街も衰退傾向にある。これら地元の商店街を活性化することはできないか。同時に地元周辺は集合住宅の多い地域でもある。だが、古い4階建ての団地ではエレベーターが設置されていない。居住者は高齢者世帯が多く、いわゆる買い物難民である。軽トラックによる個人宅配の分野に参入し、一定の経験とノウハウを蓄積すれば、このような地域特性を踏まえた新たなサービスを創造できる可能性がある。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>
(写真提供:八武崎運送)