運送事業者レポート
TOP運送事業者レポートtop>2014年4月

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第42回】 道前運送株式会社(愛媛県西条市)

自立社員を育成する教育で「真心を運ぶ」



 労働集約型産業のトラック運送業では、サービス品質を構成する要素は2つある。一つは作業の「仕組み」で、もう一つはそれを実践する「人」である。人と車両と荷物をいかに効率的に組み合わせるかという、仕組みを構築するのは経営者の重要な仕事である。また、その業務を遂行する人材の教育・育成も経営者の仕事である。

 サービス品質を構成するこの人と仕組みという2つの要素は、相互に密接な関係にある。仕組みに沿って実際に業務を行うのは人であり、どんなに優れた仕組みでも、その作業を遂行する人がついてこれなければ機能しない。そこで人材育成の第一は、自社の業務を遂行するためのスキルアップとなる。さらに第二段階では、スキルを超えて、自分で物事を判断できる自立した社員に育成することである。このようなことから道前運送(愛媛県西条市、森川公社長)では、自社の作業の仕組みと有機的に関連させた従業員教育を行っている。

 道前運送の設立は1955年で、最初は道前小型貨物運送の社名で車両3台からのスタートであった。1964年に現在の社名に改称している。同社の現在の業容は、保有車両数が43台(トラクタ1台、トレーラ1台、14tウイング車20台、14t平ボディ車1台、10tウイング車5台、7tウイング車5台、4tウイング車1台、4t平ボディ車1台、3tウイング車3台、2t箱車4台、軽車両1台)。倉庫の床面積は、第一倉庫、第二倉庫、楠倉庫を合わせて約3080平方メートルである。業務内容は一般貨物自動車運送、貨物軽自動車運送、貨物運送取扱業、倉庫業で、従業員数は48人。売上高は6億3000万円(13年12月期)で、売上比率は、大型車による長距離輸送が80%、路線集配が15%、倉庫が5%という割合になっている。また、認証・認定などでは、安全性優良事業所(Gマーク)、グリーン経営を取得している。

 運送では、食品関係の大手企業の地元工場から福岡や北関東までの広域にわたる輸送。鉄鋼関係の大手企業の地元工場の製品を、近場の横持ち輸送をしたり、瀬戸内海をはさんだ対岸の岡山への輸送などを行っている。
 特積みの配送業務では、特積み事業者2社の配送荷物を地元の西条市を起点に東は新居浜市、西は東予市、今治市のエリアで配送している。特積み事業者の仕事では、配送が主で集荷はほとんどしていない。

 一方、同社では特積み事業者に委託して全国に発送する小口貨物を独自に持っている。道前運送では荷主から出荷される荷物を総て受託するようにしているからである。貸切輸送の大きなロットの荷物だけでなく、中ロット貨物、小口貨物を一括して請けている。このうち小口貨物は自社で全国配送を直接することができないため、方面別などによって特積み事業者4社に委託している。このように同社では貸切、中ロット、小口貨物を取り扱っている。

 したがって運賃も、小口では重量建てや個建て×距離、中ロット貨物では重量×方面、貸切運賃となっている。小口貨物は特積み事業者への委託だが、貸切と中ロットは自車両と傭車による運送である。この貸切輸送と中ロット輸送で同社は様ざまな工夫を凝らしている。業界全体をみると単純な運送業務ではなかなか利益が出ないのが現状だが、同社では適正利益を確保できるような仕組みにしている。単純な運送でないために、ドライバーは様ざまな業務に精通していなければならない。そこでマルチに対応できる社員の育成が不可欠なのである。マルチな業務処理能力をもった従業員の育成がサービスの向上でもあるし、何でもできる従業員が顧客の方に目を向けて仕事ができるようになれば、さらに強い集団になれる。個人こじんの能力のアップと、それら従業員のベクトルが同じ方向を向くことで企業力が強化できる、というのが森川社長の基本的な認識のようだ。

 同社は毎月、従業員がレポートを提出する。社長が投げかけたテーマに従業員が回答し、その回答に社長がコメントして返すというもの。レポート提出は強制的なものではないが6割強の従業員から提出されるという。これらは毎月発行している社内報と一緒に給料袋に入れて渡す。社内報では決算も公表して全員に会社の業績も知らせる。レポートの設問も社内報の内容と連動させ、社内報で知らせた決算に対し、収益性を向上するにはどうしたら良いかとテーマを投げかけ、従業員がそれぞれ自分で考えて、コストダウンの方法などを提案するのである。

 また、「社員心得」と「仕事の基礎知識」を毎朝1ページずつ唱和する。毎月の研修会でも「社員心得」のなかからその月の重点項目などを勉強する。日常業務でも日替リーダー制度を導入し、全員が仕事全体の流れをつかみ、効率的に作業を進められるような判断力を培っている。実際の仕事を通した自立社員の育成である。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>