運送事業者レポート
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運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第34回】 クレハ運送株式会社(富山県富山市)

30年前から環境事業「コンテナボックス」を展開


 いまでこそ物流事業者の環境関連事業が注目されているが、運送事業者の立場から約30年前に独自の環境サービスを始めた事業者がいる。この事業者はクレハ運送(本社・富山市、神田敏社長)で、1985年ごろから「コンテナボックス」サービスを展開している。

 コンテナボックスは、簡単にいうと建設現場から排出される廃材や、企業から排出されるゴミを同社オリジナルのコンテナに入れておいてもらい、一杯になったら引き取りに行くというもの。30年前はかなり先進的なサービスだった。しかし、最近では運送事業者や一般廃棄物収集運搬業者、建設業などからの参入が増え、競争が激しくなっている。その結果、料金が大幅に下落しているという。

 どんな独創的なサービスであっても、30年もするとコモディティ化を免れることはできない。ある意味では成熟段階に入ったともいえる。そのなかで競争に勝ち抜いていくには、他社との差別化を図る必要がある。

 クレハ運送の創業は1952年、会社設立は1961年である。以前は貸切運送で、石膏ボードや建設資材、仮設材などを主に運んでいた。その後、引越サービスなどにも進出したが、1985年ごろから始めたのがコンテナボックスである。現在の保有台数は25台で、一般貨物と廃棄物を主に扱っている。このうち一般貨物輸送ではどのような荷物でも運ぶが、クレーン付きの車両が多いため建築資材などが多いという。だが、産業廃棄物関連の売上構成が大きい。

 同社が廃棄物の分野に進出した1985年ごろは、環境問題が現在ほど社会的な関心事になっていなかった。当時はバブル経済で、建設資材などを建設現場に運んでいくと、ついでに現場からでる廃材などを無料で積んで帰ってきていた。帰りに廃材を積んできても無料であり、同社で料金を払って自治体の処分場に持ち込んでいた。それでも現在に比べれば運賃に余裕があったため、何とかなっていたのである

 しかし、ある事情で自治体の処分場がなくなり、民間で処分場を行うことになった。この時、同社を含むトラック運送事業者6社でリサイクル協同組合を設立して処分場をつくった。建設資材の輸送を主に行っていたり、建設業を併業している事業者であった(現在は同社で中間処理場を持っている)。これを機に、クレハ運送では帰り荷として建設現場からでる廃材などの廃棄物の回収を有料のビジネスにしたのである。

 当時はバブル経済の最盛期で人手不足だったため、平ボディなど普通のトラックに廃材を積んで運んでいては作業効率が悪い。そこで作業を効率的なシステムにする必要があった。また、これまで無料でやっていた業務を有料化するには、以前とまったく同じままでは難しい。そこで考え出したのが、建設現場に箱を置いて廃材などを入れてもらい、いっぱいになったら回収するというシステムだったのである。同社では「コンテナボックス」という商品名にした。

 最初は自分たちが資材を運んでいく建設現場からの営業展開だったが、当時はまだ廃材回収費などは積算金額に入っていなかった。だが時代背景が幸いした。そのころの現場監督は、廃棄物処理に支払う程度の金額なら裁量権をもっていたからだ(現在では積算段階で金額が計上されている)。それでも有料化には抵抗感があったようだが、おりしも「神風が吹いてきて、有利な環境になった」(神田社長)という。「ゼロ災害運動」で基準監督署が建設現場などをまわり、現場環境の整備を進めたからである。

 その当時は、環境問題よりも労災防止などの安全面から、有料化が徐じょに進んだのである。その後、地元のテレビやその他で宣伝もした。その結果、一般の工場や街の家電販売店などからも問い合わせの電話が入るようになり、いろいろな業種、業態の顧客に取引が広がった。同社では産業廃棄物の中間処理の許可も1987年に取得している。

 コンテナも試行錯誤しながらオリジナル化し、現在は1立方メートルと2立方メートルの2サイズを合わせて2000個ほど保有している。営業エリアは富山県全域、新潟県では糸魚川まで、岐阜県では高山ぐらいまでとしている。このサービスをスタートして暫くの間は競合相手がなかったが、いまでは同様のサービスをしている競合企業もかなり増え、価格競争が激しくなってきた。その結果、料金は「ピーク時の半分程度」(神田社長)という。

 そこで同社では、効率的な配車と車両回転率の向上に力を入れている。この車両オペレーションが収益性を大きく左右するが、これは一般輸送においても運送業の基本である。また、車両もコンテナボックス以外の仕事にも使用できるように工夫するなど、運送事業者ならではのノウハウで、他業種から参入してきた事業者との差別化を図っている。さらに、現在では自社の中間処理場で中間処理を行っており、この点も同社の大きな競争力になっている。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>
※写真提供 : クレハ運送