運送事業者レポート
TOP運送事業者レポートtop>2010年11月

運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事。(毎月第1週に更新)

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【第1回】 防府通運株式会社(山口県防府市)

引越や事務機設置の経験活かし便利屋事業に参入


 トラック運送事業者も輸送量の減少や需要の変化に対応して、新たな物流サービスの開発が求められている。このような中で、一般家庭の困りごとを一括して解決するという「便利屋事業」を新たにはじめたのが防府通運(本社・山口県防府市、喜多村誠社長)だ。

  同社の社歴は古い。創業は1937年で、設立が1949年である。現在では、通運事業、貨物自動車運送事業、港湾運送事業、倉庫業、産業廃棄物収集運搬業、トランクルーム事業、通関業などを行っている。子会社も防通トランスポート(県内多頻度配送)、浜方物流(段ボール製品加工)、防通アシスト(人材派遣)、そして新事業を行うために今年6月に設立したのが防通ライフサポートである。また、関連会社にはビー・ファイブ(損害保険・生命保険)、防府荷役(港湾運送事業)、ウエルシス(情報システム事業)がある。保有車両数は防府通運と防通トランスポートを合わせて84台である。
 同社は大手企業の地元工場などとの取引も多い。しかし、経済構造の変化やリーマン・ショックなどの影響もあって、売上高はここ5年間ほぼ横ばいで推移してきた。そこでこの間、倉庫を中心にした事業へのシフトを進めてきた。同時に、新事業への参入も約3年前から検討してきたのである。

  本社所在地の防府市は人口が約12万人。地域限定サービスで、女性の社会進出や高齢化など社会構造の変化に伴う新たなニーズに対応した新サービスで、引越サービスの付帯業務や、事務機器納入・設置などの経験を活かすことができるような新事業への進出である。一般家庭のニーズを調べると様ざまな需要があることが分かった。既存の便利屋もあるが、仕事を頼んでもどのような人が来るか分からない、料金をいくら請求されるか分からないなどの不安があることも分かった。その点、自分たちは地元で良く知られ信用度が高い。「防通」の社名の会社なら利用者も安心だ。
 そこで新事業への進出を具体化した。新事業では、従業員のこれまでの経験を活かすことができる。また防通アシストには優秀な人材もいるので、これら人材の活用にもつながる。 このような経緯で6月15日に防通ライフサポートを設立し、事務用品を担当していた2名を常勤社員とした。大がかりな仕事の場合なら引越部門やさらにはグループの人材派遣会社からも人員を派遣する。また、自社では直接できない業務であれば、地元の異業種の企業と提携して対応することも可能だ。
  同社では、これからの社会の変化を
1.女性の社会進出で留守がちになり、男手がなく重い物などが運べない、家事の時間が充分にとれない
2. 高齢化社会で高齢者だけの家庭が増加してくる、体が動かない、車が運転できないといった人が増えてくる

3.自己実現社会で自分の好きなことだけに多くの時間をかけたいので代行サービスがあるなら委託したい
といったニーズが増大すると予測した。

 検討の結果、「地域密着型企業として、地元社会へ積極的に貢献でき、拡大発展可能なビジネスの構築を目的」とし、「新サービスの開発・提供は新規市場と雇用を作り出し、事業拡大は自社の経営基盤をさらに強固」にする、というコンセプトを明確にした。

  具体的には、新規ビジネスで潜在ニーズを顕在化させ、新市場への進出で法人市場から一般家庭市場への進出を図り、雇用の創出で人材の開発や雇用チャンスを拡大し、経営基盤の強化で売上利益の増加を図る、というものである。

  また、「創造的・革新的な経営への取組」による「新サービスの開発、提供」として、やまぐち産業振興財団の承認を受けることもできた。「新規性があり社会的に貢献する」(喜多村社長)というのが承認の理由である。産業振興財団の承認は、信頼性を高めるだけでなく、「事業に必要な費用の半額で、上限最高額が150万円まで、財団から3年間助成される」(山忠浩常務)というメリットもある。


(作業風景の写真は防府通運提供)

 会社設立後に日本ハウスクリーニング協会に加盟した。同協会ではハウスクリーニングや整理収納清掃など様ざまな講座を開設している。協会認定のハウスクリーニング士という資格も設けられている。専任スタッフは新規技術を習得するため講習に参加している。

  また専用車両も購入し、ロゴ・マークやユニフォームのデザインも決定して、備品購入などの準備を進めてきた。リーズナブルで分かり易い料金体系の設定は検討中だが、年内には体制を整備し、来年には新規事業を本格的にスタートする(現在でも事業は行っている)。

  新規事業では、ハウスクリーニング、リフォーム、回収・運搬、各種代行業、その他あらゆるライフサポートを行っていく。グループ内で対応できない業務は、地元の企業との提携で解決する。現在の時点では市内の異業種8社と提携しており、これら業務提携は順次拡大して行く予定だ。初年度で年間売上を2000万円以上と目標設定している。

<物流ジャーナリスト 森田富士夫>