運送事業者、荷主における新たな取り組みや成功事例にスポットをあてたインタビュー記事
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【第181回】 ササキ通商株式会社(長野県塩尻市)
付加価値サービス目指し倉庫建設を計画
ササキ通商(長野県塩尻市)は今年8月1日づけで、佐々木實社長が取締役会長になり、新代表取締役社長には佐々木雄也氏が就任した。新体制になり今後はどのような事業展開を構想しているのだろうか。同社ではほとんどが貸切契約の事業を行っているので経営は安定している。また、「当社は県外に行っているのは1台だけでそれ以外は県内の輸送業務です。契約も全部車建ての貸切りなので、売上はほぼ計算できます」(佐々木社長)。その点では経営は安定しているといえる。だが逆に、「現在のままでは、事業を拡大するにしてもトラックを1台増やしてドライバーを1人増やすというパターンしかありません」(同)。つまり現在の業務内容では事業を拡大しても付加価値を付けることが難しい。そこで「今後は倉庫に進出したい」(同)と考えている。倉庫を建設して輸送と組み合わせることで付加価値のあるサービスを提供できるような事業展開を目指そうとしているのだ。
ササキ通商は佐々木實会長が1987年に創業し、1989年に一般貨物自動車運送事業の免許(当時)を取得。現在は社員数42人(うちドライバー39人)で、保有車両数は2トン車から13.9トン車まで39台である。車両はウィング車、パワーゲート車、ドライバン車、冷凍車、ユニック車などである。事業内容は、大手宅配便事業者のセンター間輸送や集荷配送など、リネンの製品配送と使用済みの回収、レンタルの工事用保安用品の現場配送、食材や付帯する資材の店舗配送、自動車部品輸送などである。このうち売上の約50%を占めているのが大手宅配便事業者2社からの受託業務だ。両社からの受託業務はほぼ同じで、ベースから各センターやセンター間の横持ち輸送および集配業務である。集配業務は松本市、塩尻市、安曇野市をメインに中信、南信エリアを担当している。車両は大型車4台、4トン車1台、3トン車4台、2トン車1台で、そのうち冷凍車が3台である。
ササキ通商のもう一つの大きな柱はリネン関係で売上的には約30%を占める。全国的に医療福祉事業を展開している取引先の東筑摩郡山形村にある営業所(工場)から枕カバーやタオル、シーツその他を積んで長野市、上田市、佐久市、諏訪市、飯田市その他の県内全域の医療機関や介護福祉施設などに配送。なお、一部は山梨県内もある。製品はビニールひもで括られている。ハンガーにつるされている製品はビニールでくるまれている。これらを病院や福祉施設などに配送し、納品先の各フロアまで届けることが条件になっている。また、使用済みの汚れたものは専用の袋に入れて回収し、工場まで運ぶという業務だ。業務は月曜日から土曜日までで、前日に積み込んで早朝から配送に出発する。だが、月水金の週3日は同じ納品先だが、火木土の3日は異なる納品先など、その日によって配送コースが異なるなど、新人では慣れるまで少し時間がかかるようだ。
ロードコーン(三角コーン)など工事保安用品を現場に運ぶ業務も同社の古くからの仕事だ。取引先は工事用保安用品のレンタル会社で、信州まつもと空港近くの荷主の基地から、県内全域の工事現場などに保安用品を運んでいる。納品先が工事現場のためその日によって行く先が違う。また「工事現場によっては携帯電話がつながらない場所もある」(佐々木社長)が、GPSで車両の動態管理をしているので「荷主からの問い合わせにも対応できる」(同)。また同社では、食品関係の店舗配送もしている。これは山梨の事業者から受託している業務で、ファストフードの長野県内の一部の店舗に食材や食用油、食塩や紙容器類などを配送する業務。同社の担当エリアは中信や北信地域で北は新潟県に近い中野市まで行っている。配送しているのは食材と消耗品などパンを除く全部で3温度帯配送となっている。その日によって台数が違い4トン車2台ないしは3台で業務を行っているという。
このように同社の仕事はほとんどが長野県内で、4トンウィング車1台だけが安曇野市の自動車部品製造の荷主から部品を積んで愛知県に運んでいる。だが、貸切輸送だけではなく、いかに付加価値を高めるかは長年の課題だった。そこで倉庫への進出は以前からの念願ですでに用地は確保してある。だが、コロナに直面し、コロナ後の見通しを見極めているうちに建設費などが高騰してきた。倉庫進出計画は延び延びになっていて、「倉庫への進出は新社長に委ねることになった」(佐々木實会長)という。だが、重要なのは倉庫を武器にしてどのような付加価値のあるサービスの仕組みを提案できるかだ。県外から入ってくる複数の荷主の荷物を倉庫で一時保管し、同じような納品先に共同配送するといったサービスも考えられる。荷主に対しては効率化などのメリットを提示し、自社にとっては収益性の高いサービスを考える。これらは今後の新社長の手腕にかかっているともいえる。
<物流ジャーナリスト 森田富士夫>
(写真提供:ササキ通商)