最新のAMT車の実力を測る。

「弊社に最新のAMT搭載車があります。一度試乗してみませんか?車種は三菱ふそうトラック・バスのキャンター DUONIC車と、日野自動車の日野レンジャーProshift6が用意できます。」というご案内をいただいた。
ボッシュ株式会社でトランスミッションシステムを担当されている方からだ。 彼との出会いは、2012年6月に開催された「人とクルマのテクノロジー展」だった。

この展示会、毎回取材で訪れるのだが、メインは乗用車でありトラックに関する出展は少ない。何かトラックに関する出展はないものだろうか?視線はトラックの写真やイラストに集中する。その時私の目に飛び込んできたのが、同社のAMTに関するパネルであった。

三菱ふそうトラック・バスのエコハイブリッドキャンター DUONICと、日野自動車の日野レンジャーProshift6

同社の事業内容を簡単に言えば、自動車機器テクノロジー、産業機器テクノロジー、消費財・建築関連テクノロジーの3事業を柱としている。その中身を説明するには、あまりに巨大で開発や製造は多種に及んでいるため割愛させていただくが、中でも自動車機器テクノロジーの技術は目を見張るものがある。同社によって開発された自動車における最新のシステムも多い。普段は表には出てこないが、世界の自動車産業を陰で支えている企業だ。
その同社が最新のAMT車を試乗させてくれるという。断る理由はどこにもない。さっそく埼玉県比企郡にある同社工場に向かった。最新のAMT車はどこまで進化したのだろうか、期待を胸にその実力を測ってみた。

動画で見る最新AMT 試乗インプレッション

急速にAMTが進化する背景

今回試乗してみて感じたことだが、急速にAMTが進化している。その背景にある社会的要因が多分に影響しているのだろう。例を挙げれば以下の通りだ。

  • 1.オートマ限定免許の普及
  • 2.軽油価格の高騰
  • 3.ランニングコストの削減要望

現在、警察庁が公開する運転免許統計によれば新規普通自動車免許取得者のうち、AT限定免許が全体の54%を占めるに至った。当然ながら、運送事業者にとってはドライバーを確保する上で、AT限定免許者や女性ドライバーの登用を視野に入れなければならない。 ついで問題となるのが燃費だ。運送事業を経営する者にとって、一番の悩みのタネは燃料費であろう。マニュアル車であろうとAT車であろうと、歴の浅いドライバーに低燃費運転を強いるのは難しい。どうしてもドライバーによってバラつきがでるのは致し方ないことである。またクラッチ交換やオイル交換の頻度は、ランニングコストを少しでも削減したいという経営者の要望でもある。

これらを解決するのが誰にでも楽に運転できるトラックなのだが、正直ひと昔前のAMTはお世辞にもいい出来であったとは言えない。 ギアチェンジするたび、空転時間が長く、つながった瞬間大きく変速ショックを感じる。かといってトルコン式ATは燃費の問題がある。これらからトラックのミッションは、あまり脚光を浴びていなかったというのが本音だろう。
ところが、上記のような課題が浮き彫りになるにつれ、トラックメーカーにおいてもトラックのAT化はユーザーのニーズと相まって必要不可欠になっていった。その技術の向上は日進月歩の勢い。上の試乗インプレッション動画でも述べているが、今のAMT車の変速ショックは乗用車のATとなんら変わらない。快適と表現できるほどに進化している。これならば免許取立ての新人ドライバーであっても、2~3日練習すれば、すぐにでもベテランドライバー並みの燃費で、なんら違和感なく乗務できるだろう。

※新規取得中型免許にAT車限定免許はありません。

日野レンジャー Proshift6(プロシフト6)試乗インプレッション

乗用車感覚で運転できる4トン車
これまで4トン車には数多く乗ってきている。特に日野レンジャーは、いつでも転職し乗務員になれると自負するくらい手慣れたものだ。 しかしながら、AMT(Proshift6)搭載車にはこれまで乗ったことがなかった。一抹の不安が残る。
イグニッションキーをONにしてエンジン始動。走り出す前までは、どうしても従来のAMTの印象が頭をよぎる。アクセルを踏んでもエンジン回転数だけが上がり前に進んでくれないイラだち、ガツンとつながるクラッチ…
「おっ、スムーズじゃないか」思わず声に出た。
Proshift6は、通常のクラッチと6段マニュアルトランスミッションを電子制御により燃費の良好な範囲内に最適なギアを選択して自動変速するもので、走行燃費のバラツキを抑えるとともに、アクセルとブレーキの2ペダルで、AT限定免許者でも運転が可能だ。またトルコン式ATに比べて動力伝達ロスが少なく燃費効率に優れている特長を持つ。
4トン車である日野レンジャーの場合、所有者の多くは運送事業者であり、彼らの課題は目下「ドライバー不足」「軽油の高騰による燃費の改善」である。このAMT(Proshift6)はどれだけそれに貢献できるのであろうか。そんなことを考え試乗してみた。
AMT(Proshift6)の場合、ギアをDレンジに入れてもスルスルと進むクリープ現象は起こらない。アクセルを踏むとガツンとつながるのかと恐る恐る踏み込んでみたが、まったく違和感なく発進できた。
ギアは2速から3速4速とシフトアップされていく、ここまでは実にスムーズだ。では、アクセルを全開にしてみたらどうだろう?運送事業者ならば、このご時世そんな運転はタブーとされているだけに、ちょっと意地悪な運転だ。しっかり追従してくる。これもまったく問題ない。結局短い試乗時間の中で、可能な限りの運転を試みてみたが、どれも違和感なくスムーズであった。
小型から中型車に乗り換えると、まず戸惑うのが、車両のサイズが格段に大きくなるいことによる運転感覚の違いだ。車幅と内輪差を相当意識して運行することになる。
マニュアル車の場合、それに発信や後退時のクラッチ操作が加わり、さらに積載の状態で坂道発進を行うとなると車両を動かすのに精一杯になると思えるほど車両を意識する。
その点、proshift6の恩恵で、完全な2ペダル操作により、運行中はバックミラーを常にチェックして周囲の状況が把握でき、左折時にも巻き込み視認が確実に行える等、安全に運行が可能であった。安全かつ快適に運行できることは、ドライバーの疲労度を軽減できるため、運送の質を向上させる効果があると想起した。
乗用車感覚で運転できる4トン車
乗用車感覚で運転できる4トン車

三菱ふそう 新型キャンター エコハイブリッド DUONIC(デュオニック)試乗インプレッション

トラック世界初、デュアルクラッチ式6段AMT
これまでのキャンターに搭載されていた「INOMAT-II」に変わり、新型キャンターに搭載されたのが、トラック世界初となる新開発のデュアルクラッチ式6速AMT「DUONIC(デュオニック)」だ。
最大の特徴は、これまでAMT車には宿命であった変速時に発生する空転、いわゆる「トルク抜け」やシフトショックがほとんどなく、実にスムーズにシフトチェンジされることにある。
技術的な説明は苦手なので簡単に解説すると、例えば2速で発進したあと、シフトアップに備えてあらかじめ3速が準備されている。変速時は、パッと切り替わるだけ。ギアを入れ替える作業がないためトルク抜けも変速ショックもほとんどないという技術だ。
さっそくエンジンを始動、ギアをPレンジからDレンジに入れる。
えっ?Pレンジ?クリープ現象?そうなのだ、DUONICはPレンジがあり、湿式クラッチの採用で、トルコン式ATと同じクリープ走行を実現しているのだ。
ソロソロと動き出したのちアクセルを軽く踏んでみた。走り出しはいい。実にスムーズに加速していく。ギアは2速から3速4速とシフトアップされていく、助手席のカメラマンがつぶやいた。「あれ?これギア変わってる?」 変速のショックがまったく感じられないからか、ギアがチェンジされたことはエンジン音でしか判断できないという。 ここでも、意地悪してアクセルを全開にしてみた。当然ながらキチンとついてくる。違和感もない。伸びのある加速も申し分ない。
キャンターは2トン車である。このクルマのユーザーは運送事業者とは限らない。むしろ町の酒屋さんなどの方が多いかもしれない。つまり普段は乗用車に乗っていて、配達とかの時だけこのキャンターを運転することになる。ATに乗り慣れてしまうと、マニュアルのクラッチ操作は面倒で、油断するとストールしてしまう。旦那のかわりに奥さんや免許取立ての娘が急に配達に行くことになった、なんてこともあるだろう。
すなわち、いかに乗用車から乗り換えても違和感なく運転できるかが重要となってくる。
試乗は短い時間で、町中に限定されたので山間路や高速道路は試していない。しかしながら、この車の特性から、あまり遠出することはなく、もっぱら近場の配送が多いことを考えると、充分な試乗ができたと思える。
新世代のミッションの誕生であるといえば褒めすぎかもしれないが、若年層や女性ドライバーの積極登用など、配送シーンを一新する可能性を秘めたミッションであるのは間違いないだろう。
トラック世界初、デュアルクラッチ式6段AMT
トラック世界初、デュアルクラッチ式6段AMT

写真一覧

日野レンジャー 写真01 日野レンジャー 写真02 日野レンジャー 写真03 日野レンジャー 写真04
三菱ふそう 写真01 三菱ふそう 写真02 三菱ふそう 写真03 三菱ふそう 写真04
編集後記
今回2台のAMT搭載車を試乗する機会を得たのだが、その出来の良さに少々驚いている。それは乗り心地の良さだけにとどまらない。
物流シーンを変革させるだけのパワーを垣間見たからだ。そのパワーとは…基軸となるのが「オートマ限定免許」でも運転できるということにある。この特集の中でも何度も記述しているが、これからの物流を担うドライバーが不足している中、若年層の採用や女性ドライバーの積極登用が必須となってくる。データによると、彼らの半数はオートマ限定免許だ。特にこれまで男性社会であった物流業界に女性が進出されれば、思いもよらない副作用が期待できる。それは女性トイレの完備から始まり、女性ならではの発想から、荷卸しの省力化が進んだり、労働環境の改善につながる可能性さえある。
ともすれば、3K(汚い・きつい、危険)の代名詞とも言われたトラックドライバー職が、憧れの…とまでは言えないが、少なくとも今よりは入りやすい職業になるのではないか。風が吹けば桶屋が儲かる的な発想だと言われそうだが、そんな期待を抱かずにいられない。

取材協力:BOSCH株式会社 シャシーシステムコントロール事業部 アクチュエーション部門 トランスミッションシステム統括