第0回 トラックドライバー甲子園開催! 〜トラックドライバーを憧れの職業にするために〜

第0回トラックドライバー甲子園 会場風景

2012年6月16日、「第0回トラックドライバー甲子園」が開催された。主催はD.N.A(Driver New deal Association)という運送事業者の新しいグループだ。

トラックドライバーを憧れの職業にするために「共に学び、共に成長し、共に走り続ける」という基本理念のもと、活動しているD.N.A。「トラックドライバーが夢と誇りを持って仕事ができる環境を作りたい。トラックドライバーの地位を向上し、運送業界を元気にしたい。」という思いに賛同した運送事業者が、D.N.A杉本理事長(セイワ輸送(株)社長)のもとへ全国から集まり始めている。

D.N.Aでは、トラックドライバー同士が自分たちの取り組みやその結果を発表し、他社のトラックドライバーと学びあい、刺激を受けあう場を作り、一日も早くその場を広げたいという思いを持っていた。それが、今回の「第0回トラックドライバー甲子園」(プレ開催のため第0回とした)という形となった。

第0回トラックドライバー甲子園

今回は6社のトラックドライバーや配車担当者などが、各社持ち時間20分のプレゼンを行った。今回はプレ開催ということで表彰はせず優劣はつけない。こういう場で発表するのは初めてという人も多く、「緊張して吐きそうです」と笑いを誘う場面もあったが、いざプレゼンが始まると、各社イキイキと説明をし、自分の思いを語り、みんな引き込まれていた。私語や離席、携帯の音など一切なく、また発表側も一切の時間オーバーなどもなかった。これまで色々なセミナーやプレゼンを見てきたが、そのどれよりも、無駄のないプレゼンだったように思えた。さて、6社の発表を簡単にご紹介しよう。

株式会社深田運送 「無事故へ深田運送の挑戦」

株式会社深田運送

どんなものでも精密機械を運ぶ気持ちで仕事をしているという同社。

配車担当者は「管理職のいない車種ごとの班で動いている。その中で1名のリーダーを選出し、同僚のドライバーが危険運転などをした際に罰則を決めたりしなければならない。同じドライバーの罪を決めるなんて本当はつらい。でも本人のため、会社のため、事故を起こさないためと心を鬼にして頑張っている」と語った。
一方ドライバー(トレーラ班)は「入社以来、15年間無事故で来られた。視野を広く持つこと、車間時間を3秒あけること、人の命を奪ってしまうかもしれないという緊張感をもつことを常に意識している。これからも無事故で頑張りたい。」

同社は運転だけでなく社内態度、身だしなみまでお互いに注意しあう体制を作ってきた。会社の看板を背負っていること、自分1人の行動が会社全体のイメージに波及することを1人1人が認識している。この7月、接触事故0件を目指すという。

株式会社エスケイワイ流通システム 「目指せ!ITロジスティクス日本一!」

株式会社エスケイワイ流通システム

コンピューター製品、そのインフラ提供サービスと物流を同時に提供している同社。単なるドライバーではなく、ITの知識を持った「エンジニアリングドライバー」を目指しているという。ロジスティクスの本来の意味である「届けられる相手の機能を最大限に発揮すること」を念頭に置いている。

大量のPCのインストールなども請け負い、あまりの作業の多さに途方にくれたこともあったが、「日本一の人ならどうするだろう」「1人でやるとすればどうやればいいだろう」と考え抜き、プログラムでインストールを行うという新しい発想で乗り切った。その結果、作業時間の大幅短縮だけでなく、作業を人の手で行ったためのヒューマンエラーなどを防ぐことができた。これが同社の成功事例となり、「この会社なら任せて大丈夫」という信頼を得ることにつながっていったという。

またドライバーは「精密機械なので、台車の振動1つで製品をダメにする。ならばと考えて専用の養生台車と発明した」と色々な製品にあった養生台車を発表した。他社の要望にも応じて養生台車の製作も請け負うという。
「何事も気持ちが大切」と言い切った言葉には仕事へのプライドが表れていた。

株式会社ウインローダー 「エコランドの挑戦」

株式会社ウインローダー

同社が行っている循環型物流「エコランド」の紹介がメインのプレゼンだった。
「エコランド」とは、部屋の片づけサービスや不用品回収を行い、回収した家電や家具をオークションやリサイクルショップで販売。使えないものは解体し資源化するというサービスである。
片づけサービスには女性社員を使うなど、顧客が安心してサービスを受けられるように工夫しているとのことだった。

しかし発表した男性社員によると、「ドライバーという職業で人から見下されたことも何度もある。自分の子供に親の仕事を自慢したいし、子供も親の仕事を誇りに思ってほしい。ドライバーをそういう仕事にしていきたい。」と語った。

株式会社ライフサポート・エガワ 「Let's LSE!(憧れられる職業を目指して)」

株式会社ライフサポート・エガワ

創業者の江川博氏が確立したエガワプライドを、時代に合った形に変え取りくんだことにより、仕事への姿勢がよみがえった企業である。
もともと江川博氏は「制服着用義務化」「丁寧な仕事・ドライバーが同じ目線で仕事をする」などをルールとして決めていた。ある1人のドライバーが靴を脱ぎ靴下を履き替えて配送したところ、大手ワインメーカーがその行動に感銘し、それ以降仕事を任せられるようになったという。会社はどんどん成長していったが、その一方でいつの間にか思想が断絶し、ユニフォームは汚れの目立たない私服へ変わり、知らず知らずのうちに意識や態度も変わっていった。「エガワさん変わったね」と悪い意味で言われることも増えていった。

現社長の江川哲生氏は「これではいけない。社員が誇りを持てるかっこいい会社にする」と立ち上がった。ユニフォームを復活し、汚れの目立つものに変えた。「食品を運んでいるんだ。汚れが目立つなど言語道断。汚れないように丁寧な仕事をすればいい」
最初は抵抗したドライバーもいたが、ユニフォームが汚れないよう、自然と荷物の埃をぬぐい、車両や事務所も掃除するようになり、配送態度の改善にもつながった。

「今は大手運送事業者のトラックのおもちゃしか売っていないため、子供に自社のロゴが入ったおもちゃを買ってあげられない。いつか子供たちに当社のトラックのおもちゃを買ってあげられるように、会社を大きくしていきたい」と力強く発表した。

株式会社イー・ロジット 「e-LogiT 7大プロジェクト」

株式会社イー・ロジット

通販物流を一括して請け負う企業である。社員は20、30代の若手が中心。飲食店やメーカーなど全くの異業種からの転職組も多く、それぞれの様々な経験を活かしている。一度辞めた社員が「もう一度働きたい」と戻ってきたケースもある。

今回のプレゼンは社員による7大プロジェクト。「個々の力を組織へ」の考えのもと、1.品質チーム 2.環境美化チーム 3.安全チーム 4.生産性チーム 5.社内広報チーム 6.製作チーム 7.大工チームが発足した。それぞれのチームが担当している掃除やコスト計算、作業品質の向上など、自分たちで細かく計画を練り、他部署から嫌がられても実施していくうちに、喜ばれるようになり、少しずつ効果が見え始めたという。

「当たり前のことを恥ずかしがらずに言えること」を大切にし、挨拶は必ずきちんとすることという原点を心がけている。社員一人一人の小さな心がけが物流センターの増設など、企業規模の拡大につながっている。

株式会社関根エンタープライズ 「〜トラックドライバーに憧れて〜」

株式会社関根エンタープライズ

配車担当(元ドライバー)と現役女性ドライバー2人のプレゼンが行われた。

まず配車担当の男性だが、「被災地に当社だけで1か月50台以上のトラックを動かした」この経験が、彼の意識を変えた。
プレゼン後に直接お聞きした話もあわせると、彼は19歳からずっとドライバー一筋だった。当初、大手運送企業に14年間在籍していた。「最初の5年は全く休みなく働き続けた。荷物を届けることが面白くて仕方なかった。当時は24時間ぶっとおしで運転するなんてことは普通だった」とのこと。被災地を目の当たりにし「荷物を運ぶ重要性、面白さ、この志を後輩に伝えていくべきなのではないか」と考え、悩んだ末にドライバーを引退した。今は後輩を育てていくことに喜びを覚えているという。

一方の女性ドライバーは「ドライバーってかっこいい」と自ら運送の道へ飛び込んだ。しかし、女性だから、小柄だからと下に見られることも数々あり悔しい思いをしたという。「なめられてたまるか」の根性で運び続けた。そのうち顧客から「男性より丁寧」「気が利く」「見ていると元気が出る」と言葉をかけられはじめ、これが嬉しく励みになった。今では20歳くらいの女性に「お姉さんみたいなドライバーになりたい」と言われることもあり、憧れられるドライバーになりたいと日々努力しているという。こちらまで元気がもらえるプレゼンだった。

パネルディスカッション

株式会社イー・ロジット 代表取締役 角井 亮一氏 稲葉運送株式会社 専務取締役 稲葉 佳正氏 金澤運輸株式会社 代表取締役 金澤 秀昭氏 株式会社ウインローダー 代表取締役 高嶋 民仁氏 有限会社ワラマックス 代表取締役 藁科 実氏
<司会>
株式会社イー・ロジット
代表取締役 角井 亮一氏
<パネリスト>
稲葉運送株式会社
専務取締役 稲葉 佳正氏
<パネリスト>
金澤運輸株式会社
代表取締役 金澤 秀昭氏
<パネリスト>
株式会社ウインローダー
代表取締役 高嶋 民仁氏
<パネリスト>
有限会社ワラマック
代表取締役 藁科 実氏
パネルディスカッション

― 会社・経営にとってのドライバーの位置づけは?

稲葉:
「ドライバーというか、現場で働く人、配車担当も事務もアルバイトも全部ですが、主力商品。我々はトラックを売っているわけではない。運送業は人でしか表現できない。」
金澤:
「全てが同じ志で役割を果たさなくてはならない。自分自身はトラックもフォークも運転できないので、ドライバーさんを尊敬しています。ドライバーは看板、経営者はマネージャー。何がその人たちのパフォーマンスを最大化できるかを考えなくてはならない。」
高嶋:
「ドライバーの言葉、行動が大事です。それが次なる発展につながる。」
藁科:
「ドライバーあっての会社。作戦を練ったり、何かを聞く時もドライバーです。情報をもっている大切な存在。」

― ドライバーに対してどういう取り組みをしている?

稲葉:
「まだまだ従業員満足度は上げたりないと思っています。誕生日にA4 1枚の手紙を書いて渡していますが、生まれた人が多い月は大変でした(笑)。また12月22日にクリスマスケーキを1ホールプレゼントしています。ドライバーは帰りが不規則になることもあるので。以前帰庫が遅くなり、家族にケーキを買って帰られないドライバーがいたことで反省し、この試みを始めました。」
金澤:
「うちは満足度低いと思いますが・・・がんばったらお金で渡すようにしています。」
高嶋:
「誕生日にカードを書いて渡しています。その他元気朝礼や社内イベント(今度は富士山に登ります)を行っています。また新卒を採用した際、親や先生に止められた(運送事業への就職を懸念して)という話があった場合は、自ら挨拶に出向いています。」
藁科:
「うちも誕生日に商品券とカードを渡しています。ドライバーの給料明細には管理者と社長のメッセージを同封しています。また15項目からなる手当も実施し、自己申告と評価を合わせて決めています。その他、免許更新時期や車検時期(社員の自家用車)についても教え、通勤できないことがないように気を付けています。」

― D.N.Aやトラックドライバー甲子園を通じてどんな会社にしたい?

稲葉:
「今日は社員を連れてこられなかったが、この場を体験してほしい。弊社は転職組が多く、稲葉運送しか知らない人が多いので、他社のドライバーさんなどと交流をさせたい。従業員自らが人材育成や目標管理、マネジメントできる仕組みを作りたいです。」
金澤:
「弊社は物流の最適化を理念としていますが。この場は、皆同じ方向を向いていて志が近い。リアルと伝え合う場として、本質的なところで向かい合うことが、弊社の理念を達成するうえで近道かもしれません。これを通じて自ら高い目標を設定し実施できるようになりたいです。」
高嶋:
「弊社は良い会社になるというのが理念ですが、社員1人1人がそう思えるようになりたいです。そうなるためにもこのD.N.Aを活用していきたい。高い目標を果たしたチームには2013年11月開催予定の『第1回トラックドライバー甲子園』でスポットライトを浴びてもいいのではないかと考えています。」
藁科:
「会社に戻ってきたら『お疲れ様』と言い合い、『なんかいいな。この会社』と思えるような会社にしたい。このイベントで刺激を受けたい。」

D.N.A理事長 セイワ輸送株式会社 代表取締役 杉本竜彦氏
D.N.A理事長
セイワ輸送株式会社
代表取締役 杉本竜彦氏

父親から引き継いだ運送会社を、人の問題で上手く経営出来なかった時期があるという杉本氏。数字にこだわり過ぎたため、社員の気持ちを見抜けなかったことに原因がある。父親が亡くなり多くの社員が去った時、残ってくれたわずかな社員から、「社員の心を本当に握っていたのは父親だったこと」を聞かされた。初めて人の大切さに気づいた。

そんな経験を通じ、何年も前から、トラックドライバーを誇りの持てる職業にという思いを持ち続けていたところ、facebookを通じて、他の運送事業者からの賛同が少しずつ寄せられていったという。

その輪はどんどん広がり、今回のトラックドライバー甲子園という形になったわけである。今後は地方で会合を行いながら賛同者を募り、来年秋には1,000名規模の「第1回トラックドライバー甲子園」を行う予定だ。